PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© Keita Yasukawa

Truth in Sport

エスペランサは、それを追い求める者にのみ与えられる

僕たち人間は、皆それぞれ、神から与えられた何か一つの才能に秀でているものだと思います。
僕が授かったのは『走る才能』です。
それを与えてくれた神に感謝し、大きな喜びを感じながら、そして、エスペランサ(希望)を持ち続け、僕は今を走っています。
走ることは僕の全てです。

“希望を持ち続けなさい。希望は、それを追い求める者にのみ与えられるのだ。”
5年ほど前、ロベルト・シンヤシキ(ブラジル人作家/精神科医)の著書のなかでこの言葉と出会いました。
15歳のときのことです。
真意を理解し、自らの生き方に反映させるまでには少し時間がかかりましたが、今では、この言葉を強く胸に抱き、日々を過ごしています。

僕はまだ20歳ですが、これまで、すでにたくさんの遠回りをしてきました。
しかし、過去の教訓から僕はエスペランサを持ちました。陸上に本気で取り組むようになりました。
それにともない、陸上競技に対する理解も深まりました。
陸上競技は突然勝てるものではありません。忍耐強く基礎からトレーニングに励み、選手としてキャリアを積み重ねていかなければならず、とても時間がかかります。

僕には二つの大きなエスペランサがあります。

一つは、故郷ブラジリアのファベーラ(スラム)で暮らす家族を助けること。
そしてもう一つは、“世界的に偉大な陸上選手になりたい”ということです。ただこの二つ目のエスペランサについては、目指している具体的な記録など、確固たるものもありますが、現時点では自分だけの秘密です。

今は、謙虚な気持ちと大きなエスペランサを心に抱き、前を向き走り続けています。

True Moment in Sport

ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA
17
1990

スペラサオン(克服) - 前を向いて走る

僕は、ブラジルの首都ブラジリアのファベーラで生まれました。母とは幼い頃に離別したため、父が男手ひとつで育ててくれました。
10歳のとき、小学校の校長先生に勧められ、地域の持久走大会に出場したのが陸上との最初の出会いです。当時やんちゃできかん坊だった僕が、先生に言われるがまま出場したわけは、優勝商品の自転車が欲しかったからです。

3台目の自転車を手に入れた14歳の頃、才能を見いだされ、本格的に陸上のトレーニングを始めることになりました。
ちょうどその頃、ファベーラの友人たちに誘われたのをきっかけに、パーティーに繰り出し、酒やドラッグに手を染めるようになったんです。学校にも行かず、家にもろくに帰らないといった荒れた生活を送っていましたが、幸いにもサンパウロの陸上クラブからの誘いを受け、友人のいるファベーラを抜け出すきっかけを掴むことになります。
ただ、その当時陸上へ取り組む姿勢は真摯なものではありませんでした。帰省の際にファベーラの友人たちに会うと魔が差し、自分の意志も明確でないまま酒やドラッグに再び手を出し、そしてまた弱い決意でトレーニングに戻るといった中途半端なことを繰り返していました。

ようやく目を覚ますことができたのは、3年前、17歳のときです。
ギャング同士の争いの最中、兄が銃で撃たれたのです。
このままいけば僕もいずれ同じ目に遭うと思いました。そして、このままの自分では棺桶か刑務所以外に行き着く場所はないと気づいたのです。
最愛の家族のひとりを失うまで気がつかなかったということは、後悔してもしきれませんが、僕は目を覚まし変わろうと決意しました。
二度と同じ後悔をしないためにも、僕は前を向いて進むと心に誓いました。

ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA

© Keita Yasukawa

自立

兄の死の悲しみを完全にぬぐい去ることはできませんが、僕はそれによって改心し、揺るぎない決意を持つことができました。

今暮らしているのは、リオ・デ・ジャネイロ郊外の山あいにあるペトロポリスという町です。2年前の18歳の頃から、この町を拠点とする陸上クラブでトレーニングに励んでいます。
この町に来てから僕の生活や意識は一変しました。
まずは、勉強をするようになりました。来年の大学進学を目指し、今は夜間高校に通っています。
日中はもっぱらトレーニングです。
レースの賞金やスポンサーからの支援により生計を立てることが可能になったおかげで、実家の父に仕送りすることもできるようになりました。
僕の自立を喜んでくれる父の笑顔は、僕にとって大きな喜びです。
日々のトレーニングなどで辛いときや苦しいときに頭に思い浮かべるのは、父や兄のことです。家族の存在は、とても大きなモチベーションとなって僕の背中を後押ししてくれます。

今でも帰省すると、ファベーラのかつての友人たちに会うことがあります。
でも、僕は変わりました。以前の僕とは違います。十分に成長した今なら、悪いことへの誘惑を断り、逆に彼らに忠告することができます。

チャンスを無駄にすることは簡単です。僕はこれまでに多くのチャンスを無駄にしてきました。
現在は、エスペランサに満ちた人生を築くため成長していく。それだけです。

AGE 24
2014
ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA

© Keita Yasukawa

2020年、東京の街を再び走るために

今回の東京マラソン(2016年2月)で、マラソンデビューを果たせたことは、とても幸運です。東京とリオ・デ・ジャネイロの交流の一環として招待していただいた日本の外務省の方々に感謝しています。
結果はかろうじてサブ4という残念なものでしたが、2020年東京オリンピック競技大会では、ブラジル代表のマラソン選手として再び東京の街を走り、そしてリベンジするという明確な目標ができました。
これまで中長距離の練習しか経験がない僕にとって、このリベンジには人一倍の努力が必要になると思います。
僕のエスペランサの一つである『世界的に偉大な陸上選手』として、再び東京で走ることができるよう、2020年のオリンピックを目指します。

そして、トレーニングと平行して続けていきたいこと。それは勉強です。
来年からは大学に進み、体育学を専攻する予定です。
そして将来はトレーナーになり、これまでの人生で得た教訓と、さらに今後培っていくであろうアスリートとしての経験を活かし、次の世代に還元していきたいと思っています。

父は「周囲の人たちを踏みつけることなく、自らを成長させろ」と僕に言います。陸上選手としてのキャリアを重ねる一方で、常に謙虚であれと。
故郷のファベーラのために、スポーツ環境を整えたり、講演活動を行ったりといった形で貢献したいという想いもありますが、まずは僕自身が、謙虚さを失うことなく、それだけの影響力があるアスリートに成長しなくてはなりませんね。

Truth in Me

ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA

© Keita Yasukawa

自らが変えようと思わなければ、人は変わらない

僕はまだ独身ですが、左手の薬指に指輪をはめています。
これは、自分自身、走ること、そして、抱き続けるエスペランサに対する誓いの印です

残念なことに、ファベーラには、誤った道に進みやすい環境がすぐ隣り合わせに存在しています。
子どもを更生施設に入れただけで安心している親がたくさんいますが、結局は本人の意思が大事なのです。周りの環境や人ではなく、自ら気づき、変わろうという強い意志を持たない限り、何も変わらないのです。
自分自身が変わろうと決心しなくてはならないということを、僕は兄の死から学びました。
みんなには、僕が経験した悲しみのどん底を見る前に気づいて欲しい。
そして、エスペランサを持つことを。そう願うばかりです。

僕たちには、それぞれ何か一つ秀でた才能があるはずです。
その才能から人生の目的を見いだし、目的が定まったとき、それに向かってエスペランサが生まれます。

僕には二つの大きなエスペランサがあります。
僕はこれからも、エスペランサを持ち続け走っていきます。

ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA PLAY TRUE2020

ラファエル・ソアレス・シルバ - Rafael Soares SILVA

生年月日
1996年1月12日生まれ
国籍
ブラジル連邦共和国
種目
マラソン・中長距離

1996年、首都ブラジリア近郊に生まれる。
10歳の時に地元のランニング大会に出場し好成績を収め、陸上競技と出会う。才能を見いだされ15歳でサンパウロの陸上クラブ・ピニエィロス迎えられるが、1年余りで故郷に戻り友人たちと酒やドラッグに興じる日々を送る。
麻薬取引が原因で兄が命を落としたことをきっかけに、ドラッグとの決別を決心。真剣に陸上競技に取り組むためにリオ・デ・ジャネイロの陸上クラブ、ぺ・ジ・ベントに入団する。20歳の現在は、高校に通いながら、プロのアスリートとして生計を立てている。2016年東京マラソンで初マラソンに挑戦。来年、大学に進学予定。