PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© Keita Yasukawa

Truth in Sport

高みへのチャレンジを楽しむこと。
自分自身を信じ挑みつづける心へのリスペクト

スポーツ。
そこにはたくさんのチャレンジがあります。
自身の最善を尽くす過程で、決して避けては通れない困難があります。
しかし、そのチャレンジを楽しみ、果敢に挑み克服していくことで、自らの新たな可能性を発見することができます。
己に対するチャレンジの連続。まさにそれがスポーツだと思います。

スケルトン選手としての現役時代にこんな出来事がありました。
メダルに遠く及ばなかったある大会の数ヶ月後、その大会の優勝者のカナダ人アスリートとトレーニングジムで顔を合わせました。そこで彼は、「君が真の準優勝者だ」と僕の健闘を称えてきたのです。彼の言わんとしていることを理解するには、そのひとことで十分でした。
ズルや近道をすることなく、スポーツに真摯に向き合いつづけることで、自分自身へチャレンジすることができます。そして、アスリート同士でお互いのチャレンジを認め合うことが、相手へのリスペクトにつながります。いざ試合となればしのぎを削り合うライバルたちとリスペクトしあえる関係性。とても大切です。

スポーツには、文化も環境も言語も国籍も違う人々をつなぐチカラがあります。それは、他者へのリスペクトが根本にあると僕は思います。
近年、『インテグリティ(高潔性、品位)』はスポーツの重要なトピックになっています。
アスリートのチャレンジや、お互いへのリスペクト、そしてスポーツの人と人とをつなぐチカラを育むということ。このような観点から、クリーン・スポーツの実現やスポーツのインテグリティを守ることはとても重要なことだと言えます。

True Moment in Sport

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© Cameron Spencer / gettyimages

22
1979

はじめの一歩

温暖な気候のニュージーランドにおいて、ウィンタースポーツは決して盛んではありません。僕も22歳でスケルトンに出会うまでは、クリケットやスカッシュなどといった他のスポーツに熱中していました。

特にクリケットは、大学生のときに最も力を注いだスポーツだったのですが、当時のニュージーランドには大学生の選抜チームというものが存在していませんでした。
その時そこで僕がとった行動は、選抜チームを発足するということへの働きかけでした。
また別のあるとき、大学生のスカッシュ世界大会がオーストリアで開催されるという情報を耳にしました。調べてみると、そこにもニュージーランドの選抜チームの存在はありませんでした。
そこで僕がとった行動は…。やはり、すぐさまチームの発足に向けて動き出しました。

そのスカッシュ世界大会への出場が実現し、オーストリアに遠征したことがきっかけで僕はスケルトンを始めることになります。

スケルトン世界選手権チャンピオンを叔父に持ちながらも、ニュージーランド国内には競技環境が皆無に等しいため、それまでスケルトンを始める機会には恵まれませんでした。
そんな僕にとって、オーストリアでトライした初めての滑走はとても衝撃的なもので、一気に僕はスケルトンの魅力にとりつかれ、この先長い時間をかけて打ち込めるものに出会えたと信じて疑いませんでした。

自分が望むもの、またそれを達成する環境が身近にないとき。そういったときは自ら行動を起こして開拓すればいい。そうでなくとも、始まるきっかけの何かに自分自身がなればいい。そして、もしそのきっかけを掴むことができたならば、困難なことがあっても己の軸をぶらさずに一貫して進めばいい。
学生生活とその後のスケルトンの競技生活を通して、スポーツはたくさんのことを教えてくれました。

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アスリートとスポーツの架け橋として

2014年、僕は12年間の現役生活にピリオドを打ちました。
現在は、国際ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟、ニュージーランド・オリンピック委員会、そして世界アンチ・ドーピング機構のアスリート委員会のメンバーとして活動しています。その傍ら、スケルトンのコーチをする機会もあります。

スケルトンの滑走そのものは孤独な個人競技ですが、周囲のサポートなくして競技生活は成り立ちません。 僕も12年間、たくさんの人たちに支えられ、夢を追いかけてきました。
今、そしてこれからが、僕にとっては、次世代アスリートの成功の手助けをするときです。

『自分自身と真摯に向き合うこと』
『設定した目標を必ず達成できると信じ、それに向かって努力を惜しまないこと』
『定められたルールの元で自分の限界に挑戦すること』
『楽しむ心を忘れないこと』
これは僕がユース世代のアスリートと接するとき、技術的なアドバイスと合わせて特に説き聞かせることです。
スポーツがこれまで僕に多くのことを教えてくれたように、彼ら彼女らにも、スポーツを通してたくさん学んで欲しいと思います。
そういった若いアスリートのチカラをもとにしてスポーツが更に発展していくよう、アスリートとスポーツの架け橋になっていきたいです。

また、ウィンタースポーツ不毛の国や地域にも、少数ながらそれに打ち込むアスリートがいます。そういったアスリートたちの声は組織の上のほうに届きにくく、またその逆に、周囲からの競技に関する情報などが彼らに届きにくいという現状があります。現役時代に同じ境遇を経験した僕にとって、橋渡し役が適任であることは自負しています。

新しいチャレンジを通してスポーツの発展に携われることに、大きなやりがいと楽しみを感じています。

AGE 41
2002

スポーツの持つ無限の可能性。それを担う次世代のアスリートへ

スポーツに熱中するアスリートたちと、それに熱狂し感動する人々の存在。この関係性は今後も揺らぐことはないでしょう。ただ、スポーツ自体がクリーンでなくては、その関係性はまやかしのものになってしまいます。そのためにも、スポーツを統括する組織や、ユース世代のアスリートを育てる立場の人間による継続的な尽力は必要不可欠です。
ごく少数ではありますが、残念ながらルール違反をしてしまう人の存在は常にあります。また、アンチ・ドーピング活動が強化されるなか、ドーピング検査の実施に対し、一部のアスリートが積極的な協力をしていないという状況があります。アンチ・ドーピング活動は、アスリートを取り締まるものでは決してありません。
アンチ・ドーピングの本来の目的は、同じルールのもと、同じベースラインに立って競技に参加するという環境作りを前提に、目標に対してショートカットやズルをしないことで、スポーツが持つ真のチカラや純粋さを守ることです。
アンチ・ドーピング活動の推進が更に強化され、その理解がアスリートのコミュニティーだけでなく、一般社会に浸透していくことにより、スポーツの持つチカラは無限に広がっていくと思います。

将来を担うユース世代のアスリートたちには、強い道徳心を持ち、真摯にスポーツに励んでほしい。そして、ただスポーツをするのではなく、明確な目標を見いだし、その到達までの道のりを楽しんでもらいたい。
そんな若いクリーン・アスリートたちが、正しい選択をし、競技に集中できるよう、精神面や金銭面、更には競技団体としての公正なルール作りにいたるまで、僕は最善のサポートをしていきたいと思っています。

次世代のアスリートへ、現役時代から僕が心していたモットーを送りたいと思います。
“高みにチャレンジすることを楽しもう!そして、自分自身を信じ挑みつづける心をリスペクトしよう!”

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© Keita Yasukawa

Truth in Me

ベン・サンドフォード ベン・サンドフォード ベン・サンドフォード ベン・サンドフォード

© Keita Yasukawa

スポーツを通して自身のインテグリティを育てる

『インテグリティ』は、スポーツの範疇のみならず、パーソナルの部分でも必要です。
僕はこれまで、アスリートとしての夢を持っていました。その夢を叶えるための方法としてスケルトンという競技がありました。結果としてオリンピックでメダルを手にすることはできませんでしたが、スポーツは僕自身に大きな影響をもたらし、僕自身のインテグリティを大きく育ててくれました。

“朝を迎え、目を覚まし、起き上がり、その一日を懸命に頑張る。”

あるスケルトンのパラリンピアンの言葉です。
僕には想像できないほどの困難を乗り越え、障がいと向き合いながらもスポーツを楽しんでいる彼の言葉は、シンプルでありながらとてもパワフルで、深く感銘を受けました。四肢があれば簡単にできることでも、彼には難しいこともある。しかし、積極的にチャレンジし、ポジティブに人生と向き合い、楽しんでいる。そんな彼の言葉に勇気をもらった気がしました。
状況や環境は異なるかもしれませんが、僕もスポーツを通し、積極的に様々なことにチャレンジしてきました。だからこそ、彼のチャレンジに共感し、リスペクトが生まれるのだと思います。
たとえこれがアスリートでなくとも、スポーツの状況下でなくとも、やはり、チャレンジする他者への敬意というものは、僕自身のインテグリティを形成する要素として非常に重要だと感じます。

また、スポーツの総合競技大会であれば、異なる国や地域のアスリートと競い合い、他の競技のアスリートたちと接する場面も出てきます。国や地域、または競技種目を代表しているという自覚を持ったパフォーマンスや言動が求められます。
こういった責任感の強さも、パーソナルなインテグリティを形づくる大事なパーツです。

現役を終え、アスリートとは異なる立場でスポーツに関わっている今でもなお、スポーツを通した『インテグリティ』探求の旅はつづいています。

高みにチャレンジすることを楽しもう。そして、自分自身を信じ挑みつづける心をリスペクトしよう - ベン・サンドフォード PLAY TRUE2020

ベン・サンドフォード

生年月日
1979年3月12日生まれ
国籍
ニュージーランド
種目
スケルトン

幼少期よりクリケットやスカッシュに親しみ、ビクトリア大学ウェリントン在学中に、クリケットの学生組織を立ち上げる。
1992年世界選手権で優勝した叔父、ブルース・サンドフォードの影響を受け、2002年22歳の時、スケルトンを本格的に始める。
3度の冬季五輪に出場し、2012年の世界選手権では自己最高の銅メダルを獲得した。
2014年に現役引退。
現在は、ニュージーランド・オリンピック委員、WADAアスリート委員を務める他、2014年より、オセアニアから初の選出となったFIBT(International Bobsleigh and Skeleton Federation)の執行役員として、現役選手が活動しやすい環境づくり、又、セカンドキャリア構築に努めている。