PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© Keita Yasukawa

Truth in Sport

あきらめない心、感謝する心

髙橋(髙): リオデジャネイロ2016オリンピック大会での金メダル獲得から半年ほどたった今、落ち着いて振り返ると、あきらめないで頑張ってきて本当によかったなと改めて思います。

松友(松): 私にとっても決勝戦での勝利は、努力し続けてきたことが報われたと感じた最高の瞬間でした。

髙: 小学生のときから立ち止まることなくバドミントン一筋で頑張り続け、中学校入学から高校卒業までの6年間の寮生活など、つらい時期は何度もありました。でも、自分がいつか輝くためには!という強い思いを胸に乗り越えてきました。
『あきらめない強い心』と『我慢強さ』は、スポーツを通して培うことができた私の財産です。

松: それまでも『感謝の気持ち』を忘れずにバドミントンに打ち込んできましたが、多くの温かい声援を背に金メダルを手にすることができ、たくさんの祝福を受けたことは、『感謝の気持ち』の大切さを改めて見つめなおすきっかけになりました。
私を育ててくれた両親をはじめ、パートナーの髙橋先輩、これまでの競技人生で関わってきたチームメイトや指導者の方々、しのぎを削りあってきた国内外のライバル選手たちもそうです。数えだしたらきりがないほど多くの人たちに支えられてきました。
これまで一人で生きてこれたわけではないですし、バドミントンを続けてこれたことも、オリンピック出場や金メダルの獲得も、自分ひとりで成し得たことは何一つありません。

髙: 感謝の気持ちを忘れることなく、これからは一バドミントン選手というだけでなく、金メダリストとしての自覚を持って生活していかなければならないと思っています。
それに加え、2016年12月に私たちは、世界バドミントン連盟(Badminton World Federation: BWF)のインテグリティ・アンバサダー(※)に任命して頂きました。アスリートとしては、一度コートに立てば自分たちのバドミントンを貫くだけなので、そこに変わりはありませんが、規律あるクリーンアスリートとしての自覚を更に強くしていかなくてはという思いが強くなりました。そして、自分たちだけが公平なプレーをすれば良いのではなく、みんなで公平なスポーツを目指すような雰囲気を作れたらと思います。

松: アスリートにとっても、またそれを見る側にとっても、スポーツの醍醐味は、自分たちも対戦相手も、全力を尽くしての真剣勝負を楽しむことに凝縮されていると思います。もしそこで公平ではないことが起こってしまうと、スポーツの一番大事なところが崩れてしまいます。
コートの内外に関わらず、プレー以外のところでもロールモデルになっていかなければという責任を感じています。

※BWFインテグリティ・アンバサダー:
クリーンで誠実なアスリートを目指すキャンペーンの一環として、世界バドミントン連盟が選ぶバドミントン界における模範となるアスリート
【参照】 http://bwfcorporate.com/integrity/integrity-ambassadors/

True Moment in Sport

髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo

© Nihon Unisys.,Ltd

age age age
2007

お互いを信頼し、尊敬しあえる理想のペア

髙: 松友と初めて会ったのは小学生のときです。お互いそれぞれの学年のトップでプレーしていましたが、私のほうがひと学年上なので、大会などで対戦する機会はありませんでした。正直な気持ちを言うと、年下に負けたくないという思いがあったので、極力対戦したくないと思っていました。

松: 私はその逆で、ひとつ上の学年でダントツに強かった髙橋先輩と対戦したいという、憧れのような気持ちを抱いていました。ただ、やっとその願いが叶い、髙橋先輩と初めて対戦したときは全く歯が立ちませんでした。

髙: その後、同じ高校でチームメイトになり、ペアを組むようになりました。
高校3年生のとき、松友とのペアで全日本総合選手権の女子ダブルスでベスト4まで勝ち上がることができました。高校生でベスト4まで勝ち上がることが快挙だったということもあって、とても自信になりました。
その経験のおかげで、オリンピックも視野に入れ、更に上のレベルでバドミントンをやっていこうと熱く思うことができるようになったので、決して忘れることができない大会です。

松: 私にとっても、その大会が競技人生のなかで一番のターニングポイントです。自分たちがそこまでできるとは思っていなかったので、将来に向けて私たち自身の新たな発見や可能性を見いだすことができた思い出深い大会になりました。

髙: それ以来ずっと松友とのペアで頑張ってきました。私はそれまでシングルスを得意とするプレーヤーだったので、ダブルスの楽しさを知ることができたのは、松友とペアを組むようになってからです。彼女の日頃から努力を惜しまない姿勢には学ぶべきことがたくさんありますし、つらいことや苦しいことも、一緒だったからこそ乗り越えることができたので、彼女にはとても感謝しています。

松: 先輩の気持ちの強さや、生まれ持った才能は本当にすごいと思いますし、その強気の姿勢から、いつもとても良い刺激を受けています。一人では成し遂げられないことでも、先輩が一緒であれば支え合いながら達成することができると思っているので、尊敬できる先輩がパートナーで本当によかったです。

髙: バドミントンは、自分を強く持ちながらも相手を気遣うことを教えてくれました。信頼し、尊敬しあえるパートナーと出会い、世界を相手に戦えるアスリートにまで自分たちを高めることができたのは、かけがえのないことです。

髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo

© The Asahi Shimbun

責任と自覚の芽生え

髙: リオデジャネイロ2016オリンピック大会前に行われたアジア選手権の決勝で、日本人ペア同士が対戦することになりました。そのとき既にオリンピックへの出場権を確実にしていた私たちがその試合に負けると、世界ランキングの順位から、もう一方の日本人ペアも揃ってオリンピックに出場することができる可能性がありました。
正直なところ複雑な気持ちでしたが、無気力な試合をしたら、相手に失礼になると思い、自分たちのバドミントンを全力でやり切り優勝しました。

松: どんなときも真剣勝負、それがスポーツパーソンとして大切なことだと思います。

髙: 世界ランキング1位になった2014年以降でも、勝てずに苦しい時期が続くこともあったので、オリンピックでのメダル獲得が簡単でないことは、もちろん覚悟していました。

松: その結果、一番いい色のメダルを手にすることができたのは、世界で勝てるペアになりたい!という目標が、どんなときもぶれなかったからだと思っています。

髙: それにしても、ブラジルから帰国した直後の私たちを取り巻く環境の激変ぶりにはだいぶ戸惑いました。
帰国後は、常に誰かに見られているということを意識して生活するようになりました。例えば電車に乗るときのマナーであったり、普段の生活の何気ないことであっても、それまで以上に気をつけるようになりました。

松: 金メダリストになってから、応援してくださる方がすごく増えましたし、普通に道を歩いていてもたくさんの人たちに声をかけられるようになったので、一社会人として守るべき当たり前のルールを、それまで以上に意識して日々過ごすようになりました。

髙: 今は周囲の加熱ぶりがだいぶ落ち着いたということもありますが、常に見られていることにも慣れてきました。金メダリストとして、BWFインテグリティ・アンバサダーとして、周囲の期待に応えるプレーをするだけではなく、その期待のなかで生活していく責任と自覚が芽生えています。

FUTURE

髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo

© Keita Yasukawa

2020年に向けた覚悟

松: もし次のオリンピックが東京開催じゃなかったとしたら、今の私のバドミントンに対する心境は、少し違ったものになっていたかもしれません。
オリンピックの素晴らしさをリオデジャネイロで体感し、そんな素晴らしい大会が自分の国で開催されるんだと思うだけでモチベーションが上がります。

髙: 次へのモチベーションという点では、私の場合は少し異なりました。金メダルという目標を達成したことで、しばらくの間、次に目指すものがわからなくなっていました。
そんなとき、あるアスリートのインタビュー記事を読んでいて、「開催地にこだわりはない」という何気ない一文にハッとさせられ、気がついたんです、『東京』にこだわっている自分がいることに。
脳裏をかすめていた『引退』というモヤモヤは、そのときスパッと断ち切れました。
私は思ったことをすぐ行動にうつすタイプなので、東京で再び金メダルをとる!という目標が明確になってすぐにトレーニングを再開しました。
ロンドン2012オリンピック大会で、女子ダブルスとミックスダブルスの2種目で金メダルを獲得した中国の趙蕓雷選手のプレーにずっと憧れてきたので、彼女のように前衛も後衛もこなせて、誰と組んでも強さを発揮できるようなプレースタイルを身につけたいと思っています。もう引退してしまったので、残念ながら今後対戦することはできないのですが、過去の対戦から学んだことはたくさんあるので、それを活かして頑張っていきたいです。

松: また先輩と2人で一つの目標を共有できることを嬉しく思っています。
目標達成のためには、これまで以上の努力が求められることもわかっています。
世界で勝ち続けることはとても難しいことなので、勝つこともあれば、負けて悔しい思いをすることもあるはずです。自分たちが尊敬する選手たちのような理想のプレースタイルに少しでも近づけるよう、黒星をも成長の糧にして、2020年に今よりももっと強いペアになれていたらいいなと思います。

Truth in Me

髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo 髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo 髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo 髙橋礼華・松友美佐紀 Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo

© Keita Yasukawa

下を向かず、今日という日を大切に生きる

髙: 私は小さい頃からずっとバドミントン一筋の人生を歩んできました。そして、2020年の東京を目指す決心をしたので、この生活スタイルが大きく変化することはないのですが、可能な限り様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。例えば引退後のことを考えると、バドミントンの世界だけにとどまっている自分はあまり想像できませんし、そういった場合、社会において広く通用する人間でなければならないと思っています。

松: 私は日頃から『一日一生』という言葉を大切にしています。これは、2、3年前にインターネット上でふと出会った言葉で、“一日一日を無駄にせず、今日という日を大切に生きる”といった意味です。ちょうどオリンピックで結果を出すために毎日頑張っていた時期だったので、すっと自分のなかに入ってきました。今日という日を大切に、アスリートとして、人として成長していきたいと考えています。

髙: 私がいつも心がけていることは、『下を向かない』です。
何か嫌なことがあったりしても、下を向いてていいことなんかないだろうとポジティブに物事を捉えるようにしています。だから、私たちの下を向かない前向きなバドミントンを通して、あきらめずに頑張れば何かが起こるかもしれないということを、これからもっともっと多くの人たちに伝えていきたいです。

松: そして、BWFインテグリティ・アンバサダーとして、日本だけではなく世界に対しても、バドミントンの楽しさを伝え、感謝の気持ちを持って取り組む姿勢を体現するアスリートであり続けたいと思います。

髙橋礼華・松友美佐紀 - Ayaka Takahashi & Misaki Matsutomo PLAY TRUE2020

髙橋礼華

生年月日
1990年4月19日生まれ
国籍
日本
種目
バドミントン

松友美佐紀

生年月日
1992年2月8日生まれ
国籍
日本
種目
バドミントン

髙橋は、小学校1年生時に地元クラブでバドミントン競技を始める。松友は、5歳の時に地元の少年団でバドミントンを始める。
2007年、一学年差があったがペアを組み試合に臨んだ。翌年出場した全日本総合選手権女子ダブルスでは快進撃を続けベスト4に進出。
日本ユニシス株式会社に入社後再びペアを組み、様々な国際大会を制し、2014年世界バドミントン連盟(BWF)世界ランキング1位に。
リオデジャネイロ2016オリンピック大会では、劇的な逆転勝利で金メダルを獲得。

2016年12月には、2人揃ってBWFインテグリティ・アンバサダーに任命される。