© Yuki Saito
スポーツの最大の価値とは、自分のベストを尽くすこと。そして、チームスポーツであるサッカーにおいては、仲間と協力し合って共に戦うと同時に、相手と競い合うこと。それこそが、僕がこれまでの経験を通して得た大きな教えです。
僕は6歳でスペインの名門クラブ、FCバルセロナのスクール(BARÇA Academy)に入りました。その後、バルサですべての年代の育成組織を経て、19歳の時、トップチームでデビューを果たすことができました。「純粋な育成組織出身者」としては、バルサのクラブ史上初のケースとなりました。
以来、移籍やケガなどで辛い思いをした時期もありましたが、人生において素晴らしい経験を積むことができ、本当に恵まれていたと思います。その重要な経験や価値観と共に、2019年に新天地ヴィッセル神戸の一員となり、スポーツに対する考え方も広がっています。
© VISSEL KOBE
僕の5歳上の兄ジョルディはプロテニスプレーヤーとして活躍を続けています。僕にとって彼はとても大きな存在で、いつも彼の背中を追ってきましたし、実際、幼い頃は僕もテニスをやっていました。
ところが、6歳の時、祖父がバルサの「エスコラ」(スクール)の入団テストがあることを知り、僕を連れていってくれたんです。そこで合格となり、テニスをやめてサッカーに専念する決断を迫られました。ですが、バルサからのオファーは、もちろん断れません。
バルサでは、サッカーに向き合う前に、まずは仲間への「リスペクト」を子どもの頃から学びます。ロッカールームに着いたら、チームメイト一人ひとりにきちんとあいさつをするといった日常のことも含め、チームメイトや仲間と共同作業していくことの大切さを身につけるのです。これは、自分が生きていく上で、大切な価値観となっています。
そして同時に、サッカーそのものの理解の仕方についても学びました。バルサでは、エスコラからトップのチームに至るまですべて、同じフィロソフィーでプレーすることを浸透させます。短いパスを使ってボールをどのように展開していくかとか、自分のポジショニングでピッチのスペースをどう埋めていくかといった考え方など。これはバルサというチーム特有のプレースタイルですが、その後のサッカー人生において、サッカーを理解しピッチ上でダイナミックに展開するために、大きな糧となりました。
一方、僕のサッカー人生には故障がつきものでした。故障でプレーができない時期というのは、プロのアスリートにとってはとても難しい。何しろ、ケガのために何より大好きなスポーツができなくなるのですから。僕の場合は幸運にも、家族がいつも近くで支えてくれました。家族は、いつも近くで自分を支えてくれる存在。家族に限らず、いい時も悪い時も自分のそばにいてくれる大切な人たちの力を借りて、自分がポジティブでいられるように、自身と向き合ってきたと思います。
© Yuki Saito
日本に来てから、それまでバルセロナで見て感じていた日本人が持つ「リスペクト」の在り方への理解が深まりました。
バルセロナで出会った日本の方々は、相手に対する感謝の気持ちを持っていて、常に言葉に表していました。スペイン人の在り方とは全然違うものだったので、その振る舞い方にとても興味をひかれるものがありました。
神戸に来ることを決めたのは、日本開催の大会に出場した経験のある兄の勧めや、バルサからヴィッセルに先に移籍しJリーグでプレーを始めていたアンドレス・イニエスタの存在など、さまざまな要因がありました。ただ、何より僕自身がこの日本という国、特に文化に興味を持ったからです。スペインにいる時はこの街のことをよく知りませんでしたが、バルセロナに似ているところもあり、住み心地のよい街です。充実した毎日を送り、ここでの時間を本当に満喫できています。
実際に来日してみると、ヴィッセルのチームメイトや神戸の人たちを含め、日本の方々が生活やピッチ上で表す「リスペクト」の在り方は、自分が思っていた以上に広く、深いものでした。サッカー選手である僕にとって、日本人の「リスペクト」を知り、違う形であってもピッチ上でそれを示すことで、自分の視野を広げると共に、日本で一人でも多くのサポーターを得ることにもつながるだろうと信じています。僕は常にサッカーで成功することを目指していきたいですし、それが日本であれどこであれ、大事なのはサッカーを楽しみ、幸せでいられることだと思っています。
最近ではeスポーツが盛んですが、僕自身もゲームの楽しさは理解できるので、eスポーツをやる人たちをリアルなスポーツへと動かすのは簡単なことではないと思いますし、僕にスポーツの未来にどんな貢献ができるのかは分かりません。でも、やはりスポーツで実際に体を動かしたり、スポーツを生で観戦したりすることは、ゲームでは味わえない、人生における素晴らしい体験です。実際に人と人とがピッチ上で競い合い、スポーツにある最大の価値を直接経験することは、とても大切だと思っています。
© Yuki Saito
サッカーを通して知り合った人たちとの関係性というものは、選手でなくなったとしても一生涯続くものです。ヴィッセル神戸の一員として結果を出していくことが、これからの僕の使命である一方、サッカー選手とは、「競技人生」という有効期限がある職業だということも理解しています。だからこそ、出会った人たちとの関係性は僕にとって何よりも代えがたい大切なものですし、大事にそれを育んでいきたいと思っています。
どんなアスリートでも、人生においてスポーツに固執し過ぎず、スポーツ以外の面とのバランスをとることが大切です。僕にとってはサッカーが60%で、家族やプライベートなことが40%というバランス。アスリートである以上に、人としてどうあるべきかを常に考えています。家族は、ケガなどの難しい時期を乗り越えさせてくれる存在。自分の家族と離れているため簡単ではありませんが、できるだけ一緒に過ごすなどして人生におけるバランスを取っています。
そして、サポーターの方たちにも、僕のことを身近で家族的で謙虚な存在として覚えていてもらえればと願っています。バルサで学んだリスペクトを忘れず、日本で日本人が持つリスペクトの在り方をもっと知り、謙虚であることを心がけています。サッカーという面だけでなく、僕の人間性も記憶してもらえるとうれしいです。
© Yuki Saito
バルサの育成組織からトップチームに上がるまで、各年代のチームでキャプテンを務めてきました。キャプテンとして一番大事なのは、ピッチの内外でチームを代表する存在になることだと思います。チームとして目指しているものやチームの性格を、ピッチ内外でキャプテン自身が体現することがとても重要なのです。
バルサでいうなら、私と同様に育成組織出身でトップチームのキャプテンを長く務めたカルレス・プジョルは、自分にとってモデルとなる素晴らしいキャプテンでした。彼と一緒にいた時間は少なかったけれど、プレーのみならず、彼のキャプテンシーの在り方を学ぶため、彼のことはいつも追っていました。良い時も悪い時も味方を勇気づける彼のリーダーシップ、チームを率いる姿勢は、僕の心に強く残っています。
リーダーとは、人々からリスペクトされる存在だと思っています。リーダーの話には皆が耳を傾け、その言葉を皆が信じて従う。そして、皆を引っ張っていく能力が備わっている人物でもなければなりません。それは、スポーツの世界のことだけではないと思います。
僕自身、これからどこまでいけるか、どういう存在となれるか。自分を試していくことで、将来どうなるかは、必ずいつか見えてくるはずです。リスペクトの姿勢で、謙虚でありながらも恐れることなく、自分のことを信じて自分の道を進んでいきたいと思います。
カタルーニャ州バルセロナ出身。
サッカー・スペインリーグの名門バルセロナに6歳で加入。各年代のチームでキャプテンを務め、トップチームでもプレー。
プロ契約後はスペイン国内のチームへの移籍を経験。2019年、Jリーグ・ヴィッセル神戸の一員となる。